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『ゲゲゲの女房』とか。

人間というものは、自分が生きていることの実感をどこかで求めずにはいられなくなるものという前提のもとにお話ししますと、多くは、それを働くことに求めるのではないかと思われます。働くというのは、賃金労働をするという狭義で言うのではなしに、人間が…

ジッド『背徳者』(2)――土地所有の不安

手元に『背徳者』もないため書きたいことだけ書き留めておきたい。さて、『背徳者』において病とは何かという問題が引き継がれたが、この「病」は多層的な決定を受けている。もちろん、病理的な意味での(文字通りの)病が、この小説の起点をなしている。こ…

ジッド『背徳者』(1)―序文と「議長D.R.氏へ」を中心に

1902年刊行、ジッドのこの小説は、彼がはじめて「レシ」と呼んだ作品であり、それまでの現在形で語られた作品と異なり、単純過去を多用しながら語り手が回顧する形式をとる(ジッドの作品は総じて読みやすいが現在ではそれほど使われない単純過去が頻出する…

ジョゼフ・ジョースター! きさま! みているな!

旅の話をしたときになんとなくカマかけてみたら、やっぱり見ているな! という気がする。

天使なんかじゃない

矢沢あい。魅力的な絵柄、魅力的なキャラクター……なんだけど、ちょっと合わないなと思うこともある。何よりヒロインの翠は、ヒロインの容姿としては奇抜な感じがする。ヒロインそのひとというより、その傍にいて、ちょっと不幸な失恋をするタイプに見える。…

教育映画という感じの『あん』

河瀨直美監督は日本よりも世界で知られている監督だと思う。昔、2008-9年に『七夜待』を新文芸座で観たが、はっきり全く良くないと思った。話はよく覚えていないが、ハンディカムみたいなカメラでぼんやり。タイのヒーリングな世界でまったり。やりとりが聞…

間奏曲の途中ですが……

ロラン・バルトがどこかで……というか、1977年のテクスト「音楽、声、言語」のなかで、次のように書いている。 ですから、音楽について語るのは非常にむずかしいのです。絵画について語ることに成功した作家は沢山います。音楽については一人もいないと私は思…

番組の途中ですがアラサー女子の妄想ウケ狙いの漫画に二言三言。

『東京タラレバ娘』(『Kiss』2014年5月号~)という東村アキコさんの漫画があります。アラサー女子の内臓を抉るタイプの漫画として人気と阿鼻叫喚を博しています。ぼくも好きです。コメディとして傑作で、三人娘の個性が際立ってていいですよね。あとタラと…

細田守監督作品『バケモノの子』

昨日『バケモノの子』を観に行ったのだが、帰ったあとすぐに眠くなって感想を残せなかった。何だかんだで最近毎日ブログを書いていたので、連続更新記録が途絶えて残念。ネタバレします。 まず音楽が前作『おおかみこどもの雨と雪』に引き継いで高木正勝だっ…

震災ボランティア

昨日久々に思い返していたのだけれど、ぼくが震災ボランティアとして宮城県の七ヶ浜という場所で作業していたのは、2011年の5月2日から6日にかけてのこと。動機も特にあったわけではない。強いて言うなら何もしないでいる自分が嫌だっただけ。費用も企画側が…

阪神・淡路大震災二十一年

彼女が実家で飛び降りたときぼくは地元で友人とカラオケに興じていたところで、さよならとありがとうとごめんねが内容のメールが届いたとき、おいちょっと待てよ何考えてるんだという怒りの気持ちばかりが先行していた。急いで折り返し携帯や相手の実家に電…

移民ノート

1. 中東・アジア地域で紛争が絶えず、民族抗争などからジェノサイドの危機に晒されている人々が逃げ場を求めているかぎり、また、地球上の領土は何らかの国民の専有物である以前に人間共同体の根源的共有(カント)に属するものであることを承認するかぎりに…

姦通小説における妊娠・中絶はヒロインに対する懲罰か?――『美徳のよろめき』(つづき)

もう一つ、『美徳のよろめき』の自然をめぐって書こうかと思ったが、うまく展開できそうにもないので止めておく。それよりも、この小説をどう説明するか、ということをちゃんとやった方がいいかもしれない*1。 この小説の面白味(と言っては不謹慎かもしれな…

階級とロマネスク――『美徳のよろめき』(続き)

三島の小説には階級観念が現れる*1。この小説の節子も上流階級の出であり、その藤井家は「ウィットを持たない上品な一族」だとされる。躾も厳しく、門地の高い家に育ち、なお堕胎を三度繰り返すような淪落した女に節子が育ったのはなぜか。彼女は「私って娼…

肉体の狡知――三島由紀夫『美徳のよろめき』

『鏡子の家』は、読み物としてはそれほど高く評価しない。作者が登場人物に対して明晰すぎ、その宿命に至るまで見通しすぎている、というのが理由である。この小説についての作家の意気込み、同時代評の冷淡さ、三島の作品コーパス全体を見渡しての再評価、…

新潮文庫版『堕落論』解説、柄谷行人「坂口安吾とフロイト」

後半、やや奇妙な収録方針。 「今後の寺院生活に対する私考」「FARCEに就て」「文学のふるさと」「日本文化私観」「芸術地に堕つ」「堕落論」「天皇小論」「続堕落論」「特攻隊に捧ぐ」「教祖の文学」「太宰治情死考」「戦争論」「ヨーロッパ的性格、ニッポ…

フィフティーズ(2)、『鏡子の家』

作曲家のピエール・ブーレーズが先日世を去った。1925年の生まれ、満90歳の没である。三島由紀夫も同じ、1925年の生まれであるが、70年の没で、満45歳である。ブーレーズと同じ年に生まれながら、実に、半分の歳しか生きていない。一人の人間が45年間を生き…

『読書の技法』

読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門 posted with amazlet at 16.01.10 佐藤 優 東洋経済新報社 売り上げランキング: 4,593 Amazon.co.jpで詳細を見る 佐藤優。元外務省局の主任分析官で、鈴木宗男事件に連座して逮捕されるもの…

阿部和重の『アメリカの夜』がどういう感じの小説か

昨日の投稿で、夢(夢よりも仕事について語るほうがもっとマトモだった気がする)がたとえ叶わなくとも、「問題は、むしろ、その夢を諦めたとき、どういう新しい道を選ぶか」、あるいは、どういう気持でその新しい道に向き合うかということが大切ではないか…

愛と夢

恋愛漫画のなかで、恋愛と最大のライバル関係にあるのは、夢ではないかと思う。そこで、躊躇いながら、検証すべき仮説として、次が挙げられる。 「良いラブコメには夢を持った主人公が必要である。」 どうだろうか? あまり確信できない仮説ではある。夢が恋…

浮気は恋愛に入りますか?

今日、いつものようにつらつらと書くつもりだったが、久々にキルケゴールの『現代の批判』に書かれてあることを読み返してみて、ぐうの音も出なくなってしまった。 浮気とはなんであろうか? 浮気とは、ほんとうに愛することと本当に遊蕩することとの情熱的…

いちごパンツをもう一度

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000)という映画がある。悪趣味鬱映画で有名な監督ラース・フォン・トリアーの代表作の一つで、悪趣味さ(無慈悲さ、完全な無神論的傾向)で言えば『奇跡の海』に一歩譲るが、この作品はキャッチーで、歌手のビョークが主演…

赤ちゃんはどこから来るの?

つまりぼくらは非常に激しい環境破壊のただなかを生きているわけ。もし次の世代が生まれたとしたら、彼らはどう思うか。恨みに思うね。どうして自分たちをこれほど過酷な環境に産んだのか。でも、いま以上に地球環境を改善することはできない。人類は地球を…

小説はどこで読むの?

ウラジーミル・ナボコフは『文学講義』のなかで次のように書いている。 小説の質を試すのにいい処方箋は、結局のところ、詩の正確さと科学の直感とを結び合わせることだ。芸術の魔法にどっぷりと身を浸すために、賢明な読者は天才の作品を心や頭で読まず、背…

バック・トゥ・ザ・フィフティーズ。太陽の季節

西暦なんていうものにたいした意味はなく、ましてやそれを十年単位でくくって、ゼロ年代とか、テン年代とか、そういう単位があるかのように考えることには、ますますもって意味がない。 日本の現役革命家に外山恒一というひとがいて、その思想はぼくの理解に…

ものみな文にあこがれて

自分の文章はわりに好きな方です。冗長で、論理性に欠ける文章だとは思いますが、それは知性の問題であって文章の罪ではありません。むしろフェティッシュであると言っていいくらい文章には愛着があって、たとえば一度ブログなどに文章を投稿すると、そのあ…

バルトーク・オペラ

『青ひげ』という民話がある。シャルル・ペローによるもので、実在の人物であるジル・ド・レやアンリ八世をモデルにしたのではないかという説がある。ミシェル・トゥルニエには『聖女ジャンヌと悪魔ジル』という作品があって、このジル・ド・レがどういう人…

「牧野さんの祭典によせて」「牧野さんの死」「オモチャ箱」--牧野信一と坂口安吾(3・終)

二か月ほど前、「風博士」と「勉強記」――牧野信一と坂口安吾(1)および「ピエロ伝道者」と「FARCEに就て」――牧野信一と坂口安吾(2)を書きながら、生を肯定する思想に触れたかったのです。 坂口安吾が生の肯定者であること、これはたとえば「堕落論」の読者に…

「ピエロ伝道者」と「FARCEに就て」――牧野信一と坂口安吾(2)

ちょっとばかしお久しぶりです。前回は安吾の文壇デビュー作「風博士」(31年)と自伝的フィクション「勉強記」(39年)を扱って、作家の出発点について考えてみました。今回は、「ピエロ伝道師」(31年)と「FARCEに就て」(32年)を扱います。これらはデビュー時の…

「風博士」と「勉強記」――牧野信一と坂口安吾(1)

本来ならば次はデカルトの『情念論』を読むつもりでしたが、中々思うようにいかないこともあり、前回の牧野信一のあとにつづく日本文学の流れを汲むということで、坂口安吾(1906-1955)に触れておきたいと思います(twitterに挙げた文章の清書です)。 坂口安…

ストイシズムの栄光と悲惨――牧野信一「村のストア派」を読む(2)

図書カード:村のストア派 前回は牧野信一の略歴と作風を紹介しながら、「村のストア派」という短篇へのイントロダクションを行いました。繰り返し注意しておきたいのは、ここでの「ストア派」は元の外界や情念の吟味徹底による克服=無関心という性格を薄れ…

隠者のストア主義――牧野信一「村のストア派」(1)

前回前々回に少しだけ触れましたが、セネカの時代のストア派というのは中々にマッチョなところがあります。その最たるは彼がストイシズムの克己心を軍人のそれに喩えていることでしょう。勇敢な軍人が辺境に飛ばされればそれを不遇と捉え前線に置かれれば隊…

模範的であるということの擁護――セネカ「摂理について」を読む(2)

前回の議論をまとめておきます。セネカは「摂理について」のなかで、「なぜこの世界は正しいはずの神慮によって動いているにもかかわらず、最もその恵みを受けるべき善人たちにかぎって不幸に遭わねばならないのか?」という問いに答えようとしています。私…

何故この世界に不幸は存在するのか――セネカ「摂理について」を読む(1)

辛いときにはストア派を読む。これは悪くない選択肢です。ストア派の論客として知られるのは、開祖のゼノンをはじめ、キケロ、セネカ、マルクス・アウレリウス帝あたりですが、この最後に挙げた哲人君主の著作『自省録』の岩波文庫版の訳者が高名な精神科医…