ストイシズムの栄光と悲惨――牧野信一「村のストア派」を読む(2)

図書カード:村のストア派 前回は牧野信一の略歴と作風を紹介しながら、「村のストア派」という短篇へのイントロダクションを行いました。繰り返し注意しておきたいのは、ここでの「ストア派」は元の外界や情念の吟味徹底による克服=無関心という性格を薄れ…

隠者のストア主義――牧野信一「村のストア派」(1)

前回前々回に少しだけ触れましたが、セネカの時代のストア派というのは中々にマッチョなところがあります。その最たるは彼がストイシズムの克己心を軍人のそれに喩えていることでしょう。勇敢な軍人が辺境に飛ばされればそれを不遇と捉え前線に置かれれば隊…

模範的であるということの擁護――セネカ「摂理について」を読む(2)

前回の議論をまとめておきます。セネカは「摂理について」のなかで、「なぜこの世界は正しいはずの神慮によって動いているにもかかわらず、最もその恵みを受けるべき善人たちにかぎって不幸に遭わねばならないのか?」という問いに答えようとしています。私…

何故この世界に不幸は存在するのか――セネカ「摂理について」を読む(1)

辛いときにはストア派を読む。これは悪くない選択肢です。ストア派の論客として知られるのは、開祖のゼノンをはじめ、キケロ、セネカ、マルクス・アウレリウス帝あたりですが、この最後に挙げた哲人君主の著作『自省録』の岩波文庫版の訳者が高名な精神科医…